ディプログラミングのタブーを明らかに

【寄稿】中川晴久 主の羊クリスチャン教会主任牧師

今年3月25日、東京地裁は世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)に対して宗教法人の解散命令を決定した。この決定は、文部科学省による宗教法人法別条に基づく請求を受けてのもの。しかし、そこには重大な問題がある。具体的には、その根拠とプロセスへの疑義だ。

同省が主な証拠として用いたのは、平均して30年以上前に行われた家庭連合に不利な民事訴訟の判例である。特に注意すべきは、その原告の88%が拉致監禁による強制棄教、いわゆる「ディプログラミング」の被害者であったことである。

ディプログラミングは、信者を監禁し、精神的かつ肉体的な圧迫の下で信仰を破壊する、恐ろしい人権侵害である。家庭連合では4300人以上の信者がこのような被害を受けたが、オールドメディアはほとんど報じず、タブー視されている。

東京地裁の決定において、被害者とされた棄教者らの証言で、ディプログラミングの事実は一切考慮されなかった。また、発覚した文部科学省による証拠捏造も不問にされた。このような状況は、国際社会の注目の中で「タブーにタブーを重ね、さらに新たなタブーを生み出した」との印象を与える。

なぜディプログラミングにふたをするのか。その質の悪いタブーを放置すれば、司法への信頼が日本社会で失われ、法治国家の土台が崩れる。そこで、家庭連合の解散決定に繋がる日本社会の五つのタブーの解禁を試みる。


目次

サリン事件の重要背景

一つ目は、日本に深い傷を残した1995年の地下鉄サリン事件の重要な背景に関するものである。

オウム真理教(以下、オウム)が引き起こしたこのテロ事件は、同宗教の反国家的かつ暴力的体質によって生み出された。しかし、信者がディプログラミングされたことによる逆上が、オウムの過激化に繋がったとの背景については、十分に検証されていない。

「オウム真理教の精神史」の著者であり宗教学者の大田俊寛氏はこの点に注目する。

オウム信者の土谷正実氏(元死刑囚)は、仏教系団体の指導者により拉致監禁され、「オウムをやめなければ殺す」と脅迫された。それがむしろ彼のオウムへの忠誠心を強め、家族との絶縁を促す結果となった。

大田氏はこうした事例を挙げ、外部圧力こそがオウムの被害妄想や反社会性を助長した「可能性」を指摘している。

また、信者への拉致監禁は教団内で深刻な問題であったと、オウムの元顧問弁護士・青山吉伸氏も指摘している(著書『真理の弁護士がんばるぞ!』『ファッショは始まっている』、オウムの機関紙『理想社会12号』)。麻原彰晃教祖も敵対意識を抱いていた。

ディプログラミングの被害妄想のトラウマが、地下鉄サリン事件に繋がった「可能性」は検証されるべきである。

だが、日本社会はオウムをテロリストとして断罪しつつ、メディアはディプログラミングにふたをした。宗教学者もこの問題について口を閉ざした。つまり、オウム事件は30年たった今も本当の意味では総括されていないのだ。

テロリストへの同情を避けるとの論理から、ディプログラミング実行者による犯罪行為は不問とされた。この背景情報のタブー視は、実行者に「免罪符」を与える結果をもたらし、一層の人権侵害行為に「許可証」を与えたのではないか。


二つ目のタブー:永岡会長の関与

「オウム真理教被害者の会」の永岡弘行会長(当時)が、ディプログラミングに関わっていたという証言がある。

1990年当時、22歳でオウムの信者であった若野滋男氏は、3ヵ月間アパートに監禁され、すでに「統一教会の信者を350人辞めさせた(脱)洗脳のプロ」から脱会を強要された。

永岡氏もオウムを非難しながら若野氏に対して、自身の柔道の実力を背景に、

「お前の手足の関節を外し、大便小便垂れ流しの状態にできる」「鼻をそぎ、目をくりぬいて自殺しろ」

と脅迫したとされる(『理想社会12号』)。

5年後の1995年、永岡氏はオウムによるVXガス襲撃で重傷を負った。この事件は、オウムが敵対者と見なし狙った因縁を示唆するものであった。

しかし、オウム犯罪の巨悪の前では、永岡氏のディプログラミング行為への批判には誰も触れなかった。ましてや、植え付けた憎悪が翻って地下鉄サリン事件を誘発した可能性など、口が裂けても言えなかっただろう。


三つ目のタブー:警察の消極性と坂本堤弁護士

オウム事件の捜査に当初消極的だった警察の姿勢と、それに対する批判である。

坂本堤弁護士は、乱暴なディプログラミングを行った永岡会長と共に、「オウム真理教被害対策弁護団」を設立した。だが、それに先立ち坂本弁護士は統一教会問題に取り組み、「全国霊感商法対策弁護士連絡会」の設立関与、メンバーとして活動していた。

時系列的にみて、統一教会を敵視しながら、同時にオウムにも関与していたこととなる。弁護士一家が突如行方不明になった(殺害された)のは1989年11月のことである。

続く、永岡会長へのVXガス襲撃事件(1995年1月)や地下鉄サリン事件(1995年3月)など、一連の凶悪事件がオウムによって引き起こされたと判明したが、警察は当初、捜査に消極的だった。


四つ目のタブー:家庭連合とオウムの違い

ここで明確にしたいのは、「オウム真理教と家庭連合は真逆の宗教である」という事実である。

オウムは暴力で応じたが、家庭連合は「赦し」「祈り」「親孝行」で対応した。教団は「親孝行セミナー」を広め、親との関係修復に努めた。

大田俊寛氏によれば、日本では1966年以降、キリスト教牧師の森山諭氏が統一教会信者を対象にディプログラミングを開始した。1970年代には左派系の弁護士やメディア、心理学者が加わり「ディプログラミングネットワーク」が形成されたという。

もともと統一教会を標的にしていたディプログラミング組織が、破壊神を崇拝するオウム信者にもその手法を適用したのだ。


最後のタブー:同一視による偏見

ディプログラミング実行犯たちはオウムにも手法を適用し、違法行為に「免罪符」が与えられた。そして、統一教会にも同様の特権を適用させるために、両者を意図的に「同一視させるプロパガンダ」が必要だった。

家庭連合信徒の親の中には、「あなたの息子はオウムのような組織に入っている」と言われた人もいる。

家庭連合は設立以来60年間、刑事犯罪がない。それを「だから質が悪い」とするのは非論理的であり、家庭連合への偏見を助長し、裁判所の判断にも影響を与えた可能性がある。


終わりに

拉致監禁や強制的な思想改造は深いトラウマを残し、予期せぬ反発を引き起こす危険性がある。オウム事件の際、ディプログラミング実行者は自らの行為が暴力的反応を誘発した可能性を自省すべきだった。

にもかかわらず、オウムと家庭連合を同一視し、ディプログラミングを続けた結果、被害者は4300人を超え、戦後最大の人権侵害となった。

これらのタブーを放置すれば被害はさらに拡大する。だからこそ、タブーを明るみに出す必要がある。黙認はさらなる犠牲者を生むのだから。

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