暗殺事件が報道によって家庭連合糾弾にすり替わり解散命令請求に至った異常
著述家 加藤文宏
◼事件から9時間で瓦解した事実報道
安倍晋三元首相暗殺事件が発生すると、1992年の合同結婚式をめぐるゴシップ騒動以来、30年間忘れられていた世界平和統一家庭連合について、連日多数の報道が飛び交うようになった。
暗殺事件を伝える報道は、初期段階では「いつ、何が、誰によって、どのように行われたか」を伝える基本に忠実な事実報道だった。しかし当日の午後8時台になると、犯行の動機が解明されていないにもかかわらず、政治家やジャーナリストの談話として「殺されたのには理由があった」と論評する報道が登場した。続いて、夜間の会見で奈良県警が山上徹也の母親について「特定の団体」と関係があったと唐突に公表し、参院選当日の早朝に写真週刊誌FLASHのWEB版が団体を旧統一教会と断定したうえで、山上を悲劇の宗教二世と位置付けて報道した。後に判明するが、この報道も、追随した報道も、不確かな情報をもとに山上の悲劇性を語っていたにすぎなかった。
参院選の後、暗殺事件の意味づけに慎重な態度を取ってきた報道機関からも、裏付けがないまま山上徹也を悲劇の宗教二世と位置付けるナラティブを利用する動きが現れ、利用しながらナラティブを膨らませる報道が相次いだ。これらの報道から、家庭連合と安倍元首相と自民党が悲劇の原因であるだけでなく、あたかも社会の矛盾について諸悪の根源のように扱われながら、政治と宗教の関係を糾弾する報道が始まったのである。
ここまで暗殺事件から約1週間の出来事だった。
資料1. 2022年7月から2023年11月までの「合同結婚式」報道を収集して、転載記事や文章量が少なく重要性の低さがあきらかなものを除いた20件の記事に、自然言語解析の形態素解析を行うと、報道のための文章としては異例なほど形容詞が駆使されているのが分かった。古臭く、文学的な印象の「うら若い」は2010年代までさかのぼっても、ドラマを告知する記事やフィギュア(玩具)についての記事以外は使用例がなかった。また過去の合同結婚式報道で取り上げられたタレントの名前も目立った。1992年のスキャンダル時に掲載された週刊誌の記事も、違法性を指摘できないため恐ろしげな印象を振りまく様子は、30年後の合同結婚式報道と変わりないものであった。
資料2. 毎日新聞WEB版2022年7月8日20時5分「小沢一郎氏『長期政権が招いた事件』と持論安倍元首相銃撃に」と、同20時47分「『ナショナリズム旗振った安倍氏を、元自衛官がなぜ』青木理さん」が、安倍氏や自民党の落ち度を問う記事だった。
資料3. 7月10日(参院選当日)午前6時WEB版Smart FLASH「安倍元首相銃撃の山上容疑者優等生バスケ少年を変えた〝統一教会で家庭崩壊〞…事件前には近隣トラブルで絶叫【原点写真入手】」が、教団名と山上の来歴の初出だった。ただし証言によって綴られた来歴は正確さに欠くものであった。
資料4. ツイッターに投稿された「統一教会」を扱う記事への誘導について。大手報道機関11アカウント(読売新聞、朝日新聞、朝日コム、毎日新聞、毎日ニュース、産経新聞、日経新聞、共同通信、時事通信、ハフポスト、NHK)が投稿した、「統一教会」を扱う記事への誘導ツイートは2009年1月から2023年5月31日までに4246件あった。このうち99%にあたる4214件が暗殺事件後の投稿だった。なお記事への誘導は1記事につき1回と限らず、文言を変えて(あるいは変えず)複数回行われることがあり、他の話題にはない熱心さがあった。
◼ズブズブな関係報道の実態
山上徹也を悲劇の宗教二世と位置付けるナラティブは、後に奈良地裁における被告人自身の陳述と検察側の証拠によって瓦解したが、当時の報道は「家庭連合と安倍元首相と自民党の悪質さ」へと主題が飛躍し、家庭連合の信徒と政治家が名刺交換したことさえ激しく追及される事態が、以後2カ月間も続いた。
政治と宗教の関係を問うという大義名分の報道だったが、実際には自民党の政治家名ばかりが伝えられ、他党の政治家との関係が見つかると「関係性に濃淡がある」と語る弁護士の発言によって追及の機運が尻すぼみになった。また家庭連合と政治家の関係が「どのような政策や法案となって形になり」「それでどうなったのか」まったく指摘されず、アクティブな信徒が5万人とも6万人ともされる家庭連合だけでは、候補者を議員として国会に送り出すのは無理であることも解説されないまま、自民党の議員と政権だけが糾弾されたのだった。
家庭連合とは接点すらあってはならないと糾弾されたにもかかわらず、教団が影響力を行使して政治や社会が変化したり、自民党または同党議員が有利になった事実は存在しなかったのである。
これが、いわゆる「ズブズブな関係」報道だった。
このほか、家庭連合の信仰をやめたり、信仰に対して批判的な特定の人物の証言が裏取りされないまま報道されたケースなど、不適切な取材や報道が行われていたとする複数の証言がある。教団の悪質性について一方的な情報が「家庭連合についてのファクト」とされたり、異論を唱える人物が糾弾され排除された番組もあった。
当事者だけでなく、第三者からの反論も封じられたまま、家庭連合についてひたすら悪印象と不信感が広められたことで、安倍元首相と自民党に対しても繰り返し悪の烙印が押されたのだった。報道に触れた人々が、教団と政治の関係に激しい憎悪を掻き立てられたり、穢れとも呼べる忌まわしさの感情を呼び起こされて当然だっただろう。
資料5. 統一教会を扱う報道の文章に対して形態素解析を行い、統計的に文の構造や意味を検証した。すると──
a. 「統一教会」「問題」が「岸田」「首相」「調査」「文化庁」に結びつく報道。
b. 「会合」「出席」「祝電」が「イベント」「参加」「関連」「団体」「友好」に結びつく報道。
c. 「統一教会」「関係」「自民」が「議員」「点検」「結果」「公表」に結びつく報道。
d. 自民党議員を名指しして個別に追及する報道。
e. 質問権行使や解散命令請求に言及する報道。
f. 「国葬」「政権」「国会」が結びつく報道。
の6パターンに分類され、教団と政治家の関係が「どのような政策や法案となって形になり」「それでどうなったのか」は語られていなかった。
資料6. 異論を唱える人物を排除した番組について。2022年9月25日TBS「サンデージャポン」で家庭連合信徒への拉致監禁・強制棄教に反対の立場を表明した太田光氏が、他の出演者から集中攻撃され、こうした様子を知った江川紹子氏がツイッターで太田氏について「教団の代弁者」と発言した。9月30日日本テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」に出演した橋下徹氏が、「教団幹部たちの組織ぐるみの悪さはなかなか認定できない」「解散は簡単にはいかない」と発言したところ、紀藤正樹氏と嵩原安三郎氏が「何を言っているか分からない」と橋下氏を孤立させ議論を停滞させた。
◼不安や困惑という空気を生み出した報道
家庭連合に関係断絶宣言を出した岸田文雄首相は、教団を「社会的に問題が指摘される団体」と定義し、解散命令請求に駒を進めた盛山正仁文科相は「多くの方々を不安や困惑に陥れた」と説明して、それぞれの理由を社会の風潮に求めて、法的な問題点を具体的に指摘できなかった。これらは、社会の空気で関係断絶と解散命令請求が決まったのを意味している。
では解散命令へと首相らの背中を押した、社会の空気とはどのようなものだったのか。
家庭連合と自民党の政治家との関係が「どのような政策や法案となって形になり」「それでどうなったのか」を報道機関が説明しないまま両者を糾弾していたとき、補完するように一方的な「家庭連合についてのファクト」と、これを元に政治家とのズブズブな関係を伝え続けて異例ともいえる高視聴率を記録していたのが、日本テレビの「情報ライブ ミヤネ屋」だった。
「情報ライブ ミヤネ屋」の視聴率について内訳を調べると、一方的な情報で悪の烙印を押す番組に興味津々だったのは、テレビを所有する世帯の内2〜3.5%程度にすぎなかったのが分かった。
ワイドショーを視聴しない人々を含めた社会の空気は、検索サイト・グーグルでのユーザーの動向から推定することができる。この時期、グーグルで統一教会について調べものをしていた人は東京都の一部が突出して多く、教団や教団と関係した出来事に全国満遍なく興味が持たれていたとは言い難い状態だった。
社会の空気と感じられていたものは、報道の猛々しさを除けば、国民のきわめて一部の熱狂が作り上げていたものに過ぎなかったのである。
資料7. 「情報ライブ ミヤネ屋」の視聴率は平時5%程度だったが、同番組が休止され国葬儀が放映されたとき、日本テレビの放送を見る必然性が低い中で、同時間帯の視聴率は3.5%だった。ワイドショーは惰性的視聴傾向が強い番組なので、放送される時間帯にチャンネルが固定されているケースなどが3.5%程度とみることができる。つまり3.5%の惰性視聴層に、1.5%の番組ファン層が加わり、平時5%程度の視聴率を成していたと推察される。番組が家庭連合にまつわる話題を扱って視聴率7%を記録したとき、惰性視聴層と番組ファン層だけでなく、2%程度の統一教会問題に熱狂していた層が加わっていたと考えられる。
資料8. 2026年3月20日に収集したデータでは、グーグルで「統一教会」を含むキーワードを使用した検索は、暗殺事件後1カ月間に集中していた。その後、教団について報道が盛んだった8月末までの2カ月で最大値の7分の1まで急激に興味が失われて、国葬儀についての議論が盛んだった9月半ばに持ち直したものの、報道量の減少と歩調を合わせて再び減り続けて現在に至った。検索は全国から行われていたものの、大半は東京都の極めて一部(府中市、練馬区)からで、全国的な興味ではなく、都市部集中とも言い難い状態だった。暗殺された安倍元首相の選挙区である山口4区や、教団施設が「こども110番の家」のプレートを下げていると報道されて騒ぎになった愛知県江南市からも、順位づけが不可能なほど検索数が少なかった。東京都の一部だけが熱狂的に反応していたのである。
[注:グーグルが提供する検索動向の推移データは、このデータを取得した時期によってサンプルの見直しなどがあり、取得時期が異なるとき完全な再現性があるとは限らない。上記について2023年末に取得したデータでは、おおよそ2026年3月20日分と変わりなかったが、検索が集中していた地域は奈良市、多摩市、杉並区、練馬区だった。なお1年ごと確認してきたが、東京都の多摩地域、練馬区、城西地域のほか、山上徹也の出身地かつ事件が発生した奈良県(または奈良市)からの検索が多く、これらのいずれかの地域に限定される傾向は変わりなかった]
◼穢れと恐怖への重苦しい沈黙が生んだ解散命令
報道が「家庭連合と安倍元首相と自民党」を諸悪の根源として強引に結びつけ、極めて少数の人々から生じた熱狂を増幅してみせ、この熱狂に同調するふりをするため沈黙する人々が登場した現象こそ、重く緊張感に満ちた社会の空気の正体だった。大多数が同調するふりをしたのは、著名ジャーナリストが異論を唱えた人物に家庭連合の代弁者とラベリングしたように、下手な発言をすれば悪や穢れとされた教団と同一視される危険性が高かったからだ。
報道が信徒を政治の世界だけでなく社会からも排除しようとしていたので、人々が同一視されるのを怯えて当然だった。
そして社会の空気に圧迫された岸田政権と自民党が矛先をそらすために、家庭連合の宗教法人解散へと舵を切ったのではないか。
これはハンセン病の患者を排除したり、優生保護法を成立させたり継続させて障害者への不妊手術を肯定した過去の報道機関、政治家、社会の態度と酷似している。また福島第一原発事故について、エビデンスを無視した報道、歪曲と誇張、作り話によって社会を動揺させると同時に、被災地を穢れた土地のように扱った報道機関、政治家、社会の態度と同じと言ってよいだろう。
こうして解散命令に至るきっかけを報道が作ったことは「異常」だったと言わざるを得ない。
(了)
加藤文宏氏の意見書 – 公平・公正な裁判を求める有識者の会
上記より転載

